中山獣医科病院ブログ

2018年6月 5日 火曜日

犬のシャンプー療法

犬のシャンプー療法 アトピー性皮膚炎や脂漏症など疾患別に皮膚科認定医が解説

• 2018.04.30
犬にシャンプーをする必要はあるのでしょうか? まずはこの疑問から考えていきます。きっと、皆さんの頭の中には、「昔はシャンプーなんてしなかった」とか「シャンプーが必要な野生動物はいないでしょ?」という考えがあると思います。その通りです。しかし、犬が人と共に生活する家の中で、フケが気になるとか体臭が気になる際には適切にシャンプーをすることで、その問題を解決することができます。そのためには、どのようにすればよいのでしょうか。 また、もう一つ大切なことがあります。シャンプーをきちんとしていかないと、逆に毛を痛めて、さらには皮膚を傷めてしまい、皮膚病になってしまったら本末転倒ですよね。それでは、どのようにしたら毛を傷めないのでしょうか? 今回は犬のシャンプー療法について、皮膚科の視点から新庄動物病院副院長で皮膚科認定医の今本が解説します。
犬の被毛・皮膚は人間よりデリケート
毛は、主にタンパク質でできています。その一番表面にあるのがキューティクルと呼ばれる層です。その内側には毛のつやつや感を保つために必要な水分やタンパク質がありますので、キューティクルはそれを守る毛のバリアという役割を果たしています。犬の被毛のキューティクルは人間よりも薄いため、ガシガシとブラッシングをしたり、乱暴なシャンプーによって傷つけたり、間違ったシャンプーを選択することでキューティクルを傷つけてしまうことがあります。犬の皮膚科で診療していても、「フケや臭いが気になる」ということで頑張ってシャンプーをしすぎてしまって、皮膚がボロボロになって来院されることを目にすることもあります。今回は、最後まで読んでいただくことで、正しいシャンプーの選択と適切なシャンプーが実施できるような考え方をマスターしていただけるようになることを目的に書かせていただきます。
シャンプーの目的は「皮膚をきれいにすること」
犬にシャンプーをする目的として、皮膚をきれいにするといった視点から話を進めていきます。皮膚に異常が無い犬の場合でも、先ほど述べたような「臭いが気になる」とか「フケが気になる」といったことからシャンプーをすることがあると思います。これは悪いことではありませんし、犬と共に人が生活するときに、快適に過ごすためにも必要とされることがあります。また、皮膚を清潔に保つことは、皮膚の炎症や感染のリスクを低減させることでもあります。特に皮膚に異常が無い場合で人と共に快適な生活をすることを目的にシャンプーをするとすれば、2〜4週間に一度のシャンプーをお勧めしています。しかし、皮膚に何らかのトラブルを抱えている場合には、週に1~2回のシャンプーをする必要があります。そのシャンプーの方法ですが、皮膚をごしごし洗うのではなく、泡立たせてその泡で洗うような方法が推奨されるようになってきました(洗顔フォームで顔を洗う感じをイメージしてください)。このシャンプーの方法は、皮膚に異常の無い子でも、皮膚病がある子でも同じです。くどいようですが、ごしごしとこすって皮膚を傷つけたり、痛い思いをさせたりして、シャンプーが嫌いな子にするのは避けてください。
犬のシャンプー療法とは

それでは、シャンプーの具体的な話をここから始めます。まず、一口に「シャンプー」と言っても、シャンプー剤にはさまざまな種類があります。我々もドラッグストアに行くと、シャンプーコーナーにたくさんのシャンプーが並んでいてどれを選べばいいのか迷ってしまうと思います。犬も同じで、最近はたくさんの種類のシャンプーが発売されています。全てを詳細に解説するのは大変なので、そのあたりは取扱店に聞いてみてください。今回は、シャンプー療法にフォーカスを当てて解説をしていきます。シャンプー療法とは、皮膚に何らかの異常がある場合に行い、皮膚を正常で健やかな状態に近づけるために行うものです。これも一種の皮膚科の治療法です。どのような異常があるかによって、シャンプー剤の選択を変えます。
たとえば、湿疹いっぱいの皮膚病の犬を連れてくる飼い主さんで、まれに「湿疹がいっぱいだからシャンプーしないほうがいいと思って」と言われる方がいます。皮膚の上の菌が皮膚に感染し、それが原因で湿疹ができている場合は、抗菌シャンプーを用いてシャンプーをして、きちんとすすぐことで細菌を洗い流します。そうすることで、通常の内科的な治療よりも治癒までにかかる期間が短くできる場合もあります。人間でも「とびひ(膿痂疹)」の時、人から人にうつさないためお風呂を一緒に入らなかったり、タオルを共有しなかったりしますが、お風呂に入らないというのは聞いたことがないです。むしろ、皮膚の菌の数を落ち着かせ、感染する数を減少させることで、治療に一役買っていることもあります。こういう風に、ただのシャンプーではなく、皮膚を正常な状態に近付けるのを手伝ってあげたり、守るお手伝いをしたりするのを「シャンプー療法」といいます。最近はマイクロバブルやナノバブル、炭酸泉を用いた入浴も流行っています。動物病院でも取り入れられているところが増えてきました。指では落としきれない毛穴まで細かい粒子となった泡が入っていき、血流も良くなるというメリットがあります。皮膚を清潔に保つためにこれらの方法を併用することが良い場合もあります。
抗菌シャンプー
皮膚の上で細菌が増殖し、それが原因となって湿疹ができたり、かゆみが出ている場合にお勧めするシャンプーです。それ以外にも、アトピー性皮膚炎などで皮膚をかいて傷つけてしまうと、その傷へ皮膚にいる菌が感染するので、それを防ぐ目的でも使用することがあります。どのような菌が原因となっているかによっても使い分けることもありますので、そのためにはまず原因究明のための検査を実施することが必要になります。しかし、それらの検査の時間が掛かる場合には暫定的に仮診断を実施し、適切であろうと考えられるシャンプーを実施することもあります。皮膚の菌を押さえるために、やみくもに抗菌効果が強いシャンプーを使うのは、皮膚のためにも良い方法であるとは言えません。治ったら普通の動物用シャンプーでもいいですよ。
抗脂漏症用シャンプー
脱脂作用があるもの、角質溶解作用のあるもの、毛包洗浄作用あるものなどさまざまなシャンプーがあります。皮膚の汚れをきちんと落とすためには、いくつかのステップに分けてシャンプーを実施することが効果的であると言われています。犬の皮膚表面には、皮膚を守るために皮脂が分泌されています。犬の皮脂は、人の皮脂と比較してもより強力に汚れを付着させるため、汚れがたまりやすくなります。この汚れを栄養分として過剰に細菌が増殖したりするような場合には、これらの汚れ(皮脂)を定期的に洗い流すことで、皮膚を清潔に保つことができます。
特に脂漏症では、皮脂の分泌が過剰になっていますので、定期的に洗い流す必要が出てきます。そのためには、強力な皮脂をまずは浮かせて、その後にそれを洗い流すシャンプーが必要となります。しかし、一気にこれらを流してしまうと皮膚のバリア機能を果たす物質が足りなくなりますので、皮膚のバリアの役割を果たす物質を添加することも必要となります。女性の方ならイメージできると思いますが、メイク落とし、クレンジング、化粧水という順番でつけていくケアと同じだと考えてください。
抗菌ペプチドや銀イオンなどが配合されていて、皮膚の上で菌が増えにくくなるシャンプー
「まだ細菌は増えてはないがアトピー性皮膚炎」という子は、皮膚の免疫バリアも弱いため細菌感染を引き起こしやすいです。先手を打って細菌が増えにくくなるシャンプーが出ています。
水分バリアを作ってくれるシャンプー
アトピー性皮膚炎は水分保持機能がほかの子より弱いので、乾燥しやすいです。水分が抜け乾燥するだけでも痒みが出たりします。一膜、皮膚の上に水分バリアを作ってあげるだけで、外からの細菌やアレルゲンから体を守る機能が強くなります。
犬のシャンプーのやり方

「ごしごし洗い」ではなく「泡洗い」を推奨
昔は汚れていたらペット用シャンプーで洗って、その後で適切な薬用シャンプーを皮膚の悪いところからマッサージするように洗っていき5~10分おいてと言われていました。動物の皮膚は毛が生えている分、人間より薄くなっています。また、被毛は人よりも細く、キューティクルも人の5~10層に比べて数層少ないそうです。こういった理由から、皮膚の悪いところを一生懸命ごしごしすると傷つきやすくなります。皮膚への過剰な刺激により、皮膚は赤くなり、被毛がパサパサしてしいます。スキンケアという観点から、最近は「ごしごし洗い」から「泡洗い」が推奨されるようになってきています。
シャンプーの前にブラッシングから
まずはフケを浮かせるように、軽くブラッシングしてください。毛玉があったらもちろんほぐしましょう。よく、「乾かすときにブラッシングするから」と言って洗う方がいますが、もつれがある場合は、その毛玉は余計ひどくなります。ここで手抜きをすると後々もっと面倒なことになりますので、きちんと毛の絡みをなくすことは重要です。ブラッシングをするブラシにはさまざまなものがあります。スリッカーという針金みたいになっているもの、コームのようなもの、短い毛がたくさん生えているブラシ。それぞれの毛質、長さにあったものを使用してください。特にスリッカーは、力強くやり過ぎると皮膚を傷つけてしまうことがあります。それが原因で皮膚病になっての来院も珍しくはありません。ブラッシングの時に30cm離して水分を噴霧することで被毛付着物の効果的な除去が行えるという報告もあります。美容院でも髪をとかすときに水分を噴霧されますね。私は切った髪の毛が飛ばないようにだと思っていましたが、こういう効果もあるのかもしれません。毛が乾燥している状態でのブラッシングのほうが、毛髪繊維のダメージが強く枝毛になりやすいらしいです。そういう観点からも軽く湿らしてからのブラッシングは意味があるのかもしれませんね。
「ツノが立つ」まで泡立てる
さて、いよいよシャンプーです。まずは、よく体を濡らしてください。温水プールくらいの温度でいいです(25~30℃)。人間が気持ち良いなという温度にすると、犬にとっては熱いですし、シャンプー後に皮膚を乾かした後、皮膚から水分が逃げやすいことがわかっています。お湯がはねて怖がる子はシャワーヘッドを動物の体に密着させると、お湯がはねにくくなり、皮膚も早く全身濡らすことができます。お風呂に入るのが好きな子の場合は、お風呂に入れると角質が柔らかくなり、毛穴が開いて汚れが落ちやすくなります。汚れていたら、動物用シャンプー、または動物用クレンジング剤で洗ってください。先ほども述べたように最近の主流は「泡で洗う」になってきていますので、力任せに洗ったからと言って毛穴の汚れまでは、落とせません。薬用シャンプーは泡立ちにくいですが、ネットやスポンジを使うと簡単に泡立てることができます。この時、軟水のほうが泡立てやすいそうです。
日本の水道はほぼ軟水ですが、その上に超軟水というのがあるそうです。先日、私が獣医皮膚科学会に参加した時にこの話を聞いて「へぇー」と思ったのですが、そのあとにびっくりしたことがありました。超軟水が「いろはす」ということでした。シャンプーの泡を作るために「いろはす!?」「いやいや、でも皮膚で悩んでいる飼い主さまは買うかも......」。きめの細かいきれいな泡とは人間が使う泡と同じです。泡立てると「ツノが立ち」ます。この泡の状態とは、手に乗せた泡を逆さにしても、落ちない泡です。泡を作るのが大変という方は、最初から泡が出てくるシャンプーもいいものが発売されているので、それを使ってみてもいいのではないでしょうか。
泡の付け置き&洗い流し
洗い方は、悪い皮膚から泡を付けていってください。そうすると全身泡を付けた時には5分近くたっていると思います。そして一番大変な5~10分置く作業(大変な作業がいくつか出てきますけど、まだ大変な作業が出てきます)。この時に「おやつや餌をあげてもいいですし、散歩に行ってもいいですよー」とシャンプーをしない私は軽く言っていますが、飼い主さんが一番大変な時間じゃないでしょうか。夏なんかは外に出て遊ばせてもいいと思います。ちなみにブルブルしそうなときは顎の毛を親指と人差し指で持ってみてください。頭が振れなくなるので、体も振りにくくなるらしいですよ(トリマーさんが言っていました)。薬用シャンプーを使う場合には特にこの時間が重要になります。さて、シャンプーの付け置き時間が終了したら、その後よく洗い流してください。アトピーで痒みがある子には、夏は最後に水シャワーをかけることをお勧めしています。これは皮膚炎がある子の場合は、皮膚の温度が上がると痒みが増すためです。シャンプーには汚れを落とすための界面活性剤が入っている製品が多く、これが残ると皮膚が荒れてしまうことがあります。特にお腹の部分を洗い流し忘れていたり、足先にもシャンプーが残っていることが多いです。きちんと洗い流すのも重要なポイントですので、ここは時間を掛けてきちんとやってあげてください。たびたび面倒くさいポイントがありますけど、全ての過程が重要です。
Drierは温度を使い分けて
体の水分をタオルでしっかり取った後は、ドライヤーで乾かします。速く乾いてほしいので温風でガーーっとしたいところですが、温風、冷風を使い分けてください。人間も最近は髪の毛を乾かす時は125℃、頭皮を乾かす時は60℃と使い分けられるドライヤーが出ていますね。熱風は皮膚にもあまり良くないです。
シャンプーの後は化粧水
さて、ここまでで、シャンプーも終わって、きれいになりました。ここからも大切な部分です。先ほどメイク落とし、クレンジング、化粧水の流れと書きましたよね。そうです。私たちで言うなら、化粧水です。皮膚のケアも忘れずに、、、、です。近年、皮膚にいい脂肪酸が入ったスポット剤や、水分を保持してくれるピペット剤、スプレーなどが次々と発売されています。シャンプーをするのはなかなか大変という子では、シャンプーをする期間の合間(4週間ごとにシャンプーをする子の場合には、その間に週に一度のスキンケア♪)に体質に合ったこれらを付けてあげてはどうでしょう。このような方法で、付けてフケが減ったという子もいます。私はフケが出る子は脂肪酸の入ったスポット剤、アトピー体質の乾燥肌の子にはセラミド配合の水分保持機能のあるスポット剤と使い分けています。また、最近は銀イオン配合のスプレーを細菌性皮膚炎の子の患部にかけてもらったり、アトピー性皮膚炎の子には漢方配合のイヤー&スキンケアリキッドで患部を拭くのに使ってもらうこともあります。そうすることで、皮膚の異常の再発までの期間を延ばせたり、痒みを抑えられることもあります。
シャンプー療法が効果的な犬の疾患

アトピー性皮膚炎(状態によってだが、調子が良ければ2週間に1度くらい)
痒みによって皮膚を掻き、皮膚が傷つき、その場所で細菌感染を起こすという2次感染が起こることによって湿疹、かゆみがでます。そういう時に抗菌シャンプーがお勧めです。細菌感染していない場合は水分保持機能がしっかりしているシャンプーや、抗菌ペプチド配合シャンプーもお勧めです。
マラセチア性皮膚炎(週1~週2くらいの頻度。臭いが出てきたら、その都度でもいい)
  
抗真菌薬のミコナゾール配合の薬用シャンプーが出るまでは人のシャンプーを使っていたり、脂をとるシャンプーを使っていましたが、ミコナゾール配合シャンプーが出て、昔より良好な状態に保てる子が増えたと思います。ただ、脂漏症からマラセチア性皮膚炎を併発している子、アトピー性皮膚炎からマラセチア性皮膚炎を併発している子が認められます。その皮膚病により、またシャンプーを使い分ける必要がありますので、かかりつけの先生とよく相談してください。
脂漏症
脂っこい子は脱脂作用のあるシャンプーをお勧めしています。洗っている人の手の脂も持っていかれるため、皮膚の弱い人は手袋をしてください。またカサカサしたフケの出る、本態性脂漏症の子は角質溶解作用のあるシャンプーや、脱脂作用のあるシャンプーを使用します。もちろんシャンプーの後にもさまざまなケアが必要です。
外部寄生虫疾患(ニキビダニ症) 
毛包の中に寄生するニキビダニが寄生すると、脂っぽくなったり、フケが出やすくなります。その時に毛包洗浄作用、抗菌作用、脱脂作用が入っているシャンプーをお勧めします。しかし、根本的な外部寄生虫の駆除も重要です。
シャンプーで愛犬の健康をサポート
シャンプー療法というのは、家でもできる治療の一つです。ただ、普通にシャンプーするのとは違うため、薬用シャンプーをすることに慣れるまで難しく、まれに適切にできていなくてその効果を実感できないこともあると思います。そのような場合には、動物病院でシャンプーをしてもらったら良くなったということがあります。「自分では大変だな」と思ったら、シャンプー療法をやってくれる動物病院でやってもらってください。また、シャンプー前のブラッシングが適切にできていなくて皮膚病になる子もいます。乾かし方が不十分で、その後皮膚病になることもあります。どうしたらいいか困ったら、かかりつけの先生に相談してください。シャンプー療法はあくまでも外側からの治療です。皮膚の内部に皮膚が悪化する原因がある場合は、内服薬との併用が必要になります。しかし内服薬に頼るだけではなく、その子本来の皮膚を治す力に加えて、それを助けてあげたり、必要な成分を補ってあげたりとすることで健やかな皮膚を保てるようにしてくれる治療の一つです。自分が治療や病気の症状の軽減に関わることができることを楽しめるようになったら、シャンプーすることも苦ではなくなるのではないでしょうか。



投稿者 中山獣医科病院